東京高等裁判所 平成6年(行ケ)61号 判決 1995年12月05日
イギリス国
ホンコン、カントン・ローワールド・コマス・センター601
原告
アンブリッジ・リミテッド
同代表者
フランシスカス・ヨハネス・マリア・ルービング
同訴訟代理人弁理士
奥山尚男
同
武田正男
同
秋山暢利
同
奥山尚一
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官
清川佑二
同指定代理人
光田敦
同
幸長保次郎
同
吉野日出夫
同
土屋良弘
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成2年審判第18657号事件について平成5年10月26日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文第1、2項同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和60年10月18日、名称を「地図情報投影機構」とする発明(以下「本願発明」という。)について、1984年10月19日オランダ王国においてした特許出願に基づく優先権を主張して特許出願した(昭和60年特許願第233139号)したところ、平成2年6月15日拒絶査定を受けたので、同年10月22日審判を請求し、平成2年審判第18657号事件として審理された結果、平成5年10月26日、「本件審判請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年11月29日原告に送達された。なお、出訴期間として90日が附加された。
2 本願発明の要旨
スライド陽画フィルム上に表現されている地図情報を投影する機構であって、同一地域の縮尺が異なる少なくとも2つの地図が同一フレーム内に、かつ予め選択された相対位置に表現されているスライド陽画フィルムと、該スライド陽画フィルムを搬送する搬送手段と、該スライド陽画フィルムの一方の側に配置された照明装置と、該スライド陽画フィルムの他方の側に配置され、選択された地図上の選択された地域を含む部分を投影するための光学的投影機構を備える地図情報投影機構において、フレーム内の少なくとも2つの地図の上記縮尺とフレーム内の上記位置に関するデータが格納されている記憶手段と、該記憶手段に付設された読み取り装置と、フレーム内の縮尺の異なる地図を択一的に切り換えるためと選択された地図の一部分を選択するための手動操作可能な切り換え手段と、位置に関するデータを上記読み取り装置を用いて上記記憶手段から読み取り、切り換え後にも同一地域が投影されるように、上記位置に関するデータに基づいてモータを駆動することにより上記スライド陽画フィルムと上記光学的投影機構を相対的に移動させる移動手段と、地図上の投影されるべき部分を調整するための手動操作手段を備え、上記投影機構が固定拡大率を有する単一レンズユニットを備えることを特徴とする地図情報投影機構
(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(2) これに対して、昭和52年特許出願公開第4141号公報(以下「引用例1」という。)には、
マイクロフイルム化された地図情報を検索し、スクリーン2に投影する情報検索システムであって、2000分の1程度のマイクロ化された地図26-1から26-19と、この地図26-1から26-19までの範囲を1コマでカバーする10000分の1程度のマイクロ化された地図26-0が同一のフレーム内の定められた位置に表現されているマイクロフイルム26と、検索された地図情報の所望の指定された地域を投影するためのレンズを内蔵した検索機1を備える情報検索システムにおいて、
フレーム内の2000分の1程度の地図26-1から26-19と、10000分の1程度の地図26-0の各地図のコマコードとこのコマコードに対応する頁コードを記憶するディスクメモリー12と、ディスクメモリー12から頁コードを読み出すデータ処理装置8と、コマコードを入力して、フレーム内の10000分の1程度のマイクロ化された地図26-0より、2000分の1程度のマイクロ化された地図26-1から26-19の内のコマコードに対応する1つの地図を選択して切り換えるためのキーボード16と、頁コードをディスクメモリー12からデータ処理装置8で読み取り、頁コードに対応する地図の一部分を選択して切り換えてからも同一の地域がスクリーン2に投影されるように上記頁コードによりインターフェイス3を介してマイクロフイルムを制御する検索機1と、選択されたコマコードに対応する地図の隣接する部分等を投影するためにマイクロフイルムを移動するジョイステック4とを備え、検索機1に内蔵するレンズは2倍に切り換えられ、オペレータはジョイステック4を左右前後に移動すると、移動量が変換器5で検知され、その出力がインターフェイス3を介して電気的に直結された検索機1のマイクロフイルム制御部分に伝えられ、このマイクロフイルム制御部分によりジョイステック4の動きに比例してマイクロフイルムを移動するようになっている情報検索システム
(別紙図面2参照)
が記載されている。
また、昭和57年特許出願公開第161846号公報(以下「引用例2」という。)には、
地図を区分して投影表示するマップディスプレー装置において、
予め多数の地図が各コマに記録されたフイルム5の、一方の側に照明ランプ3が配置され、他方の側に拡大レンズ6及び反射ミラー7が配置されており、フイルム5をモータ等によつて、正、逆方向へ移送し、該当するコマを投影位置で正確に停止させる点
(別紙図面3参照)
が記載されている。
(3) 本願発明と引用例1記載の発明と対比すると、引用例1記載の発明の「マイクロフイルム化された地図情報を検索し、スクリーン2に投影する情報検索システム」、「2000分の1程度のマイクロ化された地図26-1から26-19と、この地図26-1から26-19までの範囲を1コマでカバーする10000分の1程度のマイクロ化された地図26-0」、「検索された地図情報の所望の指定された区域を投影するためのレンズ」、「各地図のコードを記憶するディスクメモリー12」、「データ処理装置8」、「キーボード16」及び「ジョイステック4」は、それぞれ本願発明の「スライド陽画フィルム上に表現されている地図情報を投影する機構、すなわち、地図情報投影機構」、「同一地域の縮尺が異なる少なくとも2つの地図」、「選択された地図上の選択された地域を含む部分を投影するための光学的投影機構」、「地図のデータが格納されている記憶手段」、「読み取り装置」、「手動操作可能な切り換え手段」、及び「地図上の投影されるべき部分を調整するための手動操作手段」に相当する。
したがって、本願発明と引用例1記載の発明との一致点、相違点は、次のとおりである。
一致点
スライド陽画フィルム上に表現されている地図情報を投影する機構であって、同一地域の縮尺が異なる少なくとも2つの地図が同一フレーム内に、かつ予め選択された相対位置に表現されているスライド陽画フィルムと、選択された地図上の選択された地域を含む部分を投影するための光学的投影機構を備える地図情報投影機構において、フレーム内の少なくとも2つの地図の上記縮尺とフレーム内の上記位置に関するデータが格納されている記憶手段と、該記憶手段に付設された読み取り装置と、フレーム内の縮尺の異なる地図を択一的に切り換えるためと選択された地図の一部分を選択するための手動操作可能な切り換え手段と、位置に関するデータを上記読み取り装置を用いて記憶手段から読み取り、切り換え後にも同一地域が投影されるように、上記位置に関するデータに基づいてモータを駆動することにより上記スライド陽画フィルムと上記光学的投影機構を相対的に移動させる移動手段と、地図上の投影されるべき部分を調整するための手動操作手段を備え、上記投影機構がレンズユニットを備えることを特徴とする地図情報投影機構
相違点
<1> 本願発明は、スライド陽画フィルムを搬送する搬送手段を備えているとともに、モータを駆動することにより上記スライド陽画フィルムと上記光学的投影機構を相対的に移動させる移動手段を備えているが、引用例1記載の発明は、このような搬送手段及び移動手段を備えているどうか、引用例1に記載されていない。
<2> 本願発明は、スライド陽画フィルムの一方の側に配置された照明装置を備え、光学的投影機構を該スライド陽画フィルムの他方の側に配置し、投影機構が固定拡大率を有する単一レンズユニットを備えているのに対して、引用例1記載の発明は、照明装置を備えているかどうかについて引用例1に記載されておらず、そして、光学的投影機構として備えられたレンズは、その配置について特に示されておらず、また、その拡大率は変更できる。
<3> 記憶手段に記憶された地図のデータは、本願発明では地図の上記縮尺とフレーム内の上記位置に関するデータであるのに対して、引用例1記載の発明では各地図のコマコードとこのコマコードに対応する頁コードである。
(4) そこで、上記相違点について検討する。
相違点<1>について
本願発明のスライド陽画フィルムを搬送する搬送手段については、引用例2記載の地図を区分して投影表示するマップディスプレー装置において、予め多数の地図が各コマに記録されたフイルムをモータ等によつて、正、逆方向へ移送し、該当するコマを投影位置で正確に停止させるという点で実質的に示されている。
また、モータを駆動することにより上記スライド陽画フィルムと上記光学的投影機構を相対的に移動させる移動手段については、引用例1の、頁コードをディスクメモリー12からデータ処理装置8で読み取り、頁コードに対応する地図の一部分を選択して切り換えてからも同一の地域がスクリーン2に投影されるように上記頁コードによりインターフェイス3を介してマイクロフイルムを制御する検索機1という記載、並びに、オペレータはジョイステック4を左右前後に移動すると、移動量が変換器5で検知され、その出力がインターフェイス3を介して電気的に直結された検索機1のマイクロフイルム制御部分に伝えられ、このマイクロフイルム制御部分によりジョイステック4の動きに比例してマイクロフイルムを移動するという記載、からみると、引用例1記載の検索機1には、本願発明のスライド陽画フィルムと上記光学的投影機構を相対的に移動させる移動手段が当然含まれており、特にモータで駆動するようにした点は、常套手段の採用にすぎない。
したがつて、相違点<1>に係る本願発明の構成は、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を採用することにより当業者が容易に想到できたものである。
相違点<2>について
本願発明のスライド陽画フィルムの一方の側に配置された照明装置を備え、光学的投影機構を該スライド陽画フィルムの他方の側に配置した点については、引用例2には、引用例2記載の発明において、フイルム5の、一方の側に照明ランプ3を備え、他方の側に拡大レンズ6及び反射ミラー7等の光学的投影機構に相当するものが配置されている構成として記載されている。
投影機構のレンズを固定拡大率を有する単一レンズユニットとした点は、当業者の設計的事項にすぎない。
したがつて、相違点<2>に係る本願発明の構成は、引用例1記載の発明に引用例2記載の光学的投影機構を採用することにより当業者が容易に想到できたものである。
相違点<3>について
引用例1記載の発明のコマコードは、例えば、2000分の1程度のマイクロ化され、フレーム内の所定の位置にある地図26-1に対しては01というように付けられており、すなわち、このコマコードは縮尺及びフレーム内の位置に関する情報を含んでいる。
したがつて、相違点<3>に係る本願発明の構成は、引用例1記載の発明に実質的に含まれており、この点で両者は実質的に相違していない。
そして、本願発明の作用効果には、引用例1及び引用例2記載の発明から予測される以上の格別なものはない。
(5) 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1及び引用例2記載の発明から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 審決の取消事由
審決は、本願発明と引用例1記載の発明の技術内容を誤認した結果、両者は、「フレーム内の縮尺の異なる地図を択一的に切り換えるためと選択された地図の一部分を選択するための手動操作可能な切り換え手段」を有する点で一致すると誤って認定し、かつ、相違点<1>及び<3>の判断を誤り、本願発明の奏する顕著な作用効果を看過したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1) 審決は、引用例1記載の発明における「キーボード16」が本願発明の「手動操作可能な切り換え手段」に相当するとの認定に基づき、両者は、「フレーム内の縮尺の異なる地図を択一的に切り換えるためと選択された地図の一部分を選択するための手動操作可能な切り換え手段」を有する点で一致すると認定している。
しかしながら、本願発明の手動操作可能な切り換え手段は、特許請求の範囲記載のとおり、「フレーム内の縮尺の異なる地図を択一的に切り換える」機能のほか、さらに、「選択された地図の一部分を選択する」機能を備えている。すなわち、縮小された地図から拡大された地図を選択したとき、又は拡大された地図から縮小された地図を選択したときのいずれのときも、「選択された地図の一部分を選択する」。本願発明の上記機能は、縮尺を切り換えた前後におけるスクリーン上に同一地域を自動的に表示させるための本願発明の重要な特徴である。
この点について、被告は、本願発明では、縮小された地図から拡大された地図を選択したとき、又は拡大された地図から縮小された地図を選択したときのいずれのときも、「選択された地図の一部分を選択する」機能を備えている、という構成まで限定されていない旨反論する。
しかしながら、本願発明の特許請求の範囲では、縮尺が異なる地図の大きさについての限定はなく、これは、前記「手動操作可能な切り換え手段」により、選択された地図の一部分を選択することから、縮小された地図であっても、投影される範囲よりも大きい場合を想定しているものであって、このような場合、「手動操作可能な切り換え手段」は、択一的に縮小された地図から拡大された地図を選択したとき、又は拡大された地図から縮小された地図を選択したときのいずれのときも、「選択された地図の一部分を選択する」という機能が必要であり、本願発明は当然その機能を備えているものに限定されている。
これに対し、引用例1記載の発明は、拡大された地図から縮小された地図を選択したとき、「選択された地図の一部分を選択する」ことなしに、縮小された地図の全体を投影してしまうから、「選択された地図の一部分を選択する」機能を備えていない。
本願発明と引用例1記載の発明との上記機能の差は、本願発明が自動車運転のガイドとして使用できるように縮小された地図から拡大された地図を選択、又は拡大された地図から縮小された地図を選択可能な地図情報投影機構であるのに対し、引用例1記載の発明は、火点付近の消火設備を探すため、縮小された地図から拡大された地図に切り換える一方向の手順操作が可能なシステムであるという技術的思想の差に基づく本質的なものである。
したがって、前記一致点の認定は誤りである。
(2) 審決は、相違点<1>について、引用例1記載の検索機1には、本願発明のスライド陽画フィルムと光学的投影機構を相対的に移動させる移動手段が当然含まれている旨認定判断している。
しかしながら、本願発明は、拡大された地図から縮小された地図に切り換えた後にも、特許請求の範囲に記載された移動手段により「切り換え後にも同一地域が投影されるように、上記位置に関するデータに基づいてモータを駆動することにより上記スライド陽画フィルムと上記光学的投影機構を相対的に移動させる」という機能を備えている。
これに対し、引用例1には、前記(1)のとおり、拡大された地図から縮小された地図に切り換えた後に上記マイクロ化された地図と上記光学的投影機構を相対的に移動させるという機能を備えていない。
したがって、相違点<1>についての審決の上記認定判断は誤りである。
(3) 審決は、相違点<3>について、この点に係る本願発明の構成は、引用例1記載の発明に実質的に含まれている旨認定判断している。
しかしながら、本願発明において記憶手段に記憶された地図の「位置に関するデータ」とは、各地図内の複数の点の位置に関するデータと、縮尺が異なる地図の位置に関するデータとをいう。このことは、平成2年10月22日付手続補正書(以下「全文補正明細書」という。)の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明並びに明細書添付の図面の記載から明らかである。一般に「位置」とは、点又は面のいずれをも規定し得る概念であるが、本願発明における「位置」が点位置を意味することは、FIG4(別紙図面1参照)及び「枠組30は前図のレンズ機構の照準地域を示す。この枠組30は方形であり、中央は参照番号31により示されている。方向7と8は、座標の中心としてのこの中央点に対して示される。」(全文訂正明細書14頁5行ないし8行)と記載されていることから明らかである。
本願発明において、「位置」と「地域」とは、例えば、特許請求の範囲に「切り換え後にも同一地域が投影されるように、上記位置に関するデータに基づいて」と記載されているように、明確に使い分けしている。
この点について、被告は、本願発明の記憶手段は、縮尺の異なる各地図内の複数の点の位置に関するデータを記憶することまでは構成要件として限定しているものではない旨主張するが、当業者が使用する「位置」とは、点に関する位置を意味しており(甲第10号証、甲第11号証)、また、本願発明の移動手段は、特許請求の範囲記載から前記のような機能を備えていることが明らかであるから、被告の主張は理由がない。
これに対し、引用例1記載の発明のディスクメモリー12には、「フレーム内の2000分の1程度の地図26-1から26-19と、10000分の1程度の地図26-0の各地図のコマコードとこのコマコードに対応する頁コード」が記憶されているにすぎない。ここで、コマコードに対応する各地図の位置とは、単に1個のある広がりを有する地域(すなわち、面を意味する。)を示す位置であり、本願発明の位置とはその技術的意味を異にする。
したがって、相違点<3>についての審決の上記認定判断は誤りである。
(4) 審決は、本願発明の作用効果には、引用例1及び引用例2記載の発明から予測される以上の格別なものはない旨判断している。
しかしながら、本願発明は、「自動車運転のガイドとして使用することができるように、縮尺を切り換えた時にスクリーン上に同一地域が自動的に表示される地図情報投影機構を提案する」(全文補正明細書6頁4行ないし7行)こと、すなわち、スライド陽画フィルム上に表現される地図情報を投影する単なる地図情報投影機構ではなく、自動車の運転席の近くに配置して、運転中の運転者が縮尺を切り換えた時、スクリーン上に投影された地図上で、現在位置を含む周辺地域を見ることができるようにした地図情報投影機構を提案することを目的とする。
そして、本願発明は、その要旨とする構成を採用したことにより、スライド陽画フィルムの同一フレーム内にある縮尺が異なる少なくとも2つの地図を相互に切り換えても、切り換え前後の映写幕13上に投影される地図像上の一定位置(中央点)は相互に対応して変わらないので、該一定位置(中央点)を自動車の走行中の現在位置に合わせれば、スクリーン上の該一定位置(中央点)に該自動車の現在位置が必ず表示されるので、運転者にとって極めて便利であるという作用効果を奏する。
この点について、被告は、本願発明は、構成要件において、「切り換え前後の映写幕13上に投影される地図像上の一定位置(中央点)は相互に対応して変わらない」として限定していない旨主張するが、その特許請求の範囲の記載されたスライド陽画フィルムの同一フレーム内にある縮尺が異なる少なくとも2つの地図を相互に切り換えても、「同一地域が投影される」ということは、必ず切り換え前後の映写幕上に投影される地図像上の一定位置(実施例では中央点)は自動的に相互に対応して変わらないことを意味するから、被告の主張は理由がない。
引用例1記載の発明には、本願発明のこのような作用効果を全く期待することができない。
したがって、審決は、本願発明の奏する顕著な作用効果を看過したものである。
第3 請求の原因に対する被告の認否及び主張
1 請求の原因1ないし3は認める。審決の認定判断は正当であって、審決に原告主張の違法は存しない。
2(1) 原告は、審決が、引用例1記載の発明における「キーボード16」が本願発明の「手動操作可能な切り換え手段」に相当するとの認定に基づき、両者は、「フレーム内の縮尺の異なる地図を択一的に切り換えるためと選択された地図の一部分を選択するための手動操作可能な切り換え手段」を有する点で一致すると認定したのは、誤りである旨主張する。
しかしながら、本願発明は、「フレーム内の縮尺の異なる地図を択一的に切り換えるためと選択された地図の一部分を選択するための手動操作可能な切り換え手段」を備えているものであって、原告が主張するように、縮小された地図から拡大された地図を選択したとき、又は拡大された地図から縮小された地図を選択したときのいずれのときも、「選択された地図の一部分を選択する」機能を備えている、という構成まで限定されていない。
そして、引用例1記載の発明も、「選択された地図の一部分を選択する」機能を備えており、この点で両者に相違するところはない。
したがって、審決の前記一致点の認定に誤りはない。
(2) 原告は、本願発明の移動手段は、拡大された地図から縮小された地図に切り換えた後にも、特許請求の範囲に記載された移動手段により「切り換え後にも同一地域が投影されるように、上記位置に関するデータに基づいてモータを駆動することにより上記スライド陽画フィルムと上記光学的投影機構を相対的に移動させる」という機能を備えていることを前提として、引用例1記載の発明は、このような機能を備えていないから、相違点<1>についての審決の認定判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、本願発明は、原告主張のような拡大された地図から縮小された地図に切り換えた後に、上記マイクロ化された地図と上記光学的投影機構を相対的に移動させるという機能を必ず有することまで構成要件として限定されていないから、原告の主張は本願発明の構成に基づかない主張であって、失当である。
(3) 原告は、相違点<3>について、本願発明において記憶手段に記憶された地図の「位置に関するデータ」とは、各地図内の複数の点の位置に関するデータと、縮尺が異なる地図の位置に関するデータとをいい、また、本願発明において、「位置」と「地域」とは、明確に使い分けしている旨主張する。
しかしながら、位置に関するデータについては、本願発明の特許請求の範囲では、「フレーム内の上記位置に関するデータが格納されている記憶手段」としており、この上記位置に対応して、「同一地域の縮尺が異なる少なくとも2つの地図が同一フレーム内に、かつ予め選択された相対位置に表現されているスライド陽画フィルム」としているだけであり、本願発明の記憶手段は、縮尺の異なる各地図内の複数の点の位置に関するデータを記憶することまでは構成要件として限定しているものではない。また、本願発明の特許請求の範囲では、「位置に関するデータを上記読み取り装置を用いて上記記憶手段から読み取り、切り換え後にも同一地域が投影されるように、上記位置に関するデータに基づいてモータを駆動することにより上記スライド陽画フィルムと上記光学的投影機構を相対的に移動させる」としており、この点からみても、位置に関するデータは、そのデータに基づいて切り換え後にも同一地域が投影されるようなデータであればよく、原告主張のようには限定されていない。
本願発明において、「地域」は地図上に描かれたそれぞれ地名が付けられている土地の区域という意味合いで使い、「位置」は地図あるいはフレーム上のそれぞれの部分の平面上の幾何学的位置という意味合いで使っている点では、「地域」と「位置」は使い分けられているが、それだからといって、縮尺の異なる各地図内の複数の点の位置に関するデータを記憶することまでは構成要件として限定されているとはいえない。
そして、引用例1記載の発明の記憶手段に格納されているデータは、「フレーム内の少なくとも2つの地図の縮尺とフレーム内の上記位置に関するデータ」を含んでおり、この点についての審決の判断に誤りはない。
(4) 原告は、本願発明は、自動車の運転席の近くに配置して、運転中の運転者が縮尺を切り換えた時、スクリーン上に投影された地図上で、現在位置を含む周辺地域を見ることができるようにした地図情報投影機構を提案することを目的とし、請求の原因4(4)記載の作用効果を奏する旨主張する。
しかしながら、本願発明の特許請求の範囲では、原告主張の用途に限定されてなく、また、原告の主張のような「切り換え前後の映写幕13上に投影される地図像上の一定位置(中央点)は相互に対応して変わらない」という点も構成要件として限定されていないから、原告の主張は失当である。
第4 証拠関係
証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
理由
第1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)、同3(審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。
第2 そこで、原告主張の審決の取消事由について検討する。
1 成立に争いのない甲第2号証(特許願、明細書及び図面)、同第6号証(全文補正明細書)によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。
(1) 本願発明は、同一地域の縮尺が異なる少なくとも2つの地図が同一フレーム内に、かつ予め選択された相対位置に表現されているスライド陽画フィルムと、該スライド陽画フィルムの一方の側に配置された照明装置と、該スライド陽画フィルムの他方の側に配置され、選択した地図上の選択された地域を含む部分を投影するための光学的投影機構を備える地図情報投影機構、特に乗用車内での使用が可能である地図情報投影機構に関する(全文補正明細書3頁8行ないし18行)。
乗用車内で運転中の運転者は現在位置又は相応する位置の周辺地域を示す部分地図を見ることを欲し、それは運転者が小地域を極めて詳細に見ることができる大縮尺であることもあり、大地域を見ることができる小縮尺であることもある。
これを満たす従来技術による機構は複雑な構造を必要とし、故に高価であり、また、測量地図を使用するにも拘らず一般に位置標示が映写幕の中央に写らない欠点がある。
引用例1記載の発明は、大きな地図と縮小された地図は同じ地域を表示しているので、縮尺が切り換えられた時に同じ地域が自動的に達成されており、本願発明の課題解決のための手段は開示されてなく、自動車運転用のシステムに応用することは困難である。
本願発明は、自動車運転のガイドとして使用することができるように、縮尺を切り換えた時にスクリーン上に同一地域が自動的に表示される地図情報投影機構を提案することを技術的課題(目的)とする(同3頁19行ないし6頁7行)。
(2) 本願発明は、前記技術的課題を解決するために要旨(特許請求の範囲第1項)記載の構成(同1頁5行ないし2頁10行)を採用した。
(3) 「本発明により提案された機構は、位置情報に対する最も実際的な使用者の要求を理想的に満たす。比較的小規模の技術的発展で、特に極めて単純な技術を適用することにより、大量生産に達することができることと、それ故に市販価格は現在開発されている他の機構の価格の一部にすぎず、大部分の車の所有者の潜在経済力の範囲内である筈であることの事実は、本発明に係る機構が極めて大規模にかつ極めて低価格で量産される可能性を与える。」(15頁17行ないし16頁6行)。
2 原告は、本願発明の手動操作可能な切り換え手段は、択一的に縮小された地図から拡大された地図を選択したとき、又は拡大された地図から縮小された地図を選択したときのいずれのときも、「選択された地図の一部分を選択する」という機能を備えているのに対し、引用例1記載の発明は、拡大された地図から縮小された地図を選択したとき、「選択された地図の一部分を選択する」ことなしに、縮小された地図の全体を投影してしまうから、「選択された地図の一部分を選択する」機能を備えていないのに、両者は、「フレーム内の縮尺の異なる地図を択一的に切り換えるためと選択された地図の一部分を選択するための手動操作可能な切り換え手段」を有する点で一致するとした審決の認定は誤りである旨主張する。
しかしながら、本願発明の前記特許請求の範囲には、「選択された地図の一部分を選択する」とのみ記載されているから、本願発明の要旨とする構成は、単に選択された地図の一部分を選択するものにすぎないことは一義的に明確であって、縮小された地図から拡大された地図を選択したとき、又は拡大された地図から縮小された地図を選択したときのいずれのときも、選択された地図の一部分を選択するという構成に限定されるものではない。
確かに、本願発明の特許請求の範囲には、縮尺が異なる地図の大きさについての限定はないが、そうだからといって、本願発明の要旨を、縮小された地図であってもその地図の大きさを投影される大きさより当然大きいものと解することはできない(同じ大きさを投影する場合、すなわち全体を投影する場合も含む、と解される。)から、本願発明の要旨は、原告主張のいずれの場合にも選択された地図の一部を選択する機能を有するものに限定されるということはできない。
一方、成立に争いのない甲第7号証によれば、引用例1は、発明の名称を「情報検索システム」とする特許発明の出願公開公報であって、その特許請求の範囲には、「複数のマイクロフイルム化された地図情報を検索する検索装置と、前記各々の地図情報に対応する付加情報を記憶する記憶装置と、前記地図情報及び付加情報を表示する表示装置を有し、端末機からの情報信号により該複数のマイクロフイルム化された地図情報より所望の地図情報を検索し、更に前記検索された地図情報の所望の区域を指定することにより該記憶装置から前記指定された区域に対応する付加情報を表示することを特徴とする情報検索システム」(1頁左下欄4行ないし13行)と記載されていることが認められ、さらに、その発明の詳細な説明及び図面(別紙第2図)を参酌すると、引用例1記載の発明は、より具体的には審決の理由の要点(2)記載の構成のものであるということができる。
そうすると、引用例1記載の発明においては、オペレータは予めスクリーンに投影された地図を見ながらキーボードを用いてコマコードを入力することにより縮尺の異なる同一地域の地図をスクリーン上に投影するものであることが明らかである。
そして、前掲甲第7号証によれば、引用例1の発明の詳細な説明には、「第2図において、26はマイクロフイルムベース、26-1から26-19は2000分の1程度の地図がマイクロ化されており、それぞれの地図はお互いに隣接関係にあり、あたかも大きな範囲の地図がます目状に区切られているような状態になつている。26-0は26-1から26-19までの範囲を1コマでカバーするように例えば10000分の1程度の地図がマイクロ化されており、その拡大図を第3図に示す」(2頁右下欄8行ないし17行)と記載されていることが認められるから、引用例1記載の発明において、それぞれの地図は、あたかも大きな範囲の地図がます目状に区切られている状態になっており、地図(26-0)は、各地図(26-1~26-19)までの範囲をカバーするのであるから、前記それぞれの地図(26-1~26-19)は地図(26-0)の一部分に対応するものであり、オペレータは、予め選択された地図(26-0)からそれぞれの地図(26-1~26-19)に対応する部分を選択し、キーボードによりコマコード26-1~26-19を切り換えることにより、スクリーン上にはオペレータが地図(26-0)中で選択した部分(地域)と同一の地域が自動的に選択されるから、結局、引用例1記載の発明において選択された地図(26-0)から各地図(26-1~26-19)を選択することは、本願発明における「選択された地図の一部を選択する」ことと何ら異なるところがないというべきである。
原告は、本願発明と引用例1記載の発明との上記機能の差は、本願発明が自動車運転のガイドとして使用できるように縮小された地図から拡大された地図を選択、又は拡大された地図から縮小された地図を選択可能な地図情報投影機構であるのに対し、引用例1記載の発明は、火点付近の消火設備を探すため、縮小された地図から拡大された地図に切り換える一方向の手順操作が可能なシステムであるという技術的思想の差に基づく本質的なものである旨主張するが、本願発明の要旨は、その地図情報投影機構の用途を自動車運転ガイドに限定するものではなく、また、両者は選択された地図の一部を選択する構成において、一致することは前述のとおりであるから、原告の主張は理由がない。
したがって、本願発明と引用例1記載の発明とは、「フレーム内の縮尺の異なる地図を択一的に切り換えるためと選択された地図の一部分を選択するための手動操作可能な切り換え手段」を有する点で一致するとした審決の認定に誤りはない。
3 原告は、引用例1記載の発明は、本願発明のような、移動手段により切り換え後にも同一地域が投影されるように、位置に関するデータに基づいてモータを駆動することによりスライド陽画フィルムと光学的投影機構を相対的に移動させるという機能を備えていないから、相違点<1>についての審決の認定判断は誤りである旨主張する。
この点について、被告は、本願発明は上記のような機能を備えることを要旨とするものでない旨主張するが、本願発明は、「スライド陽画フィルム上に表現されている地図情報を投影する機構」に係るものであるから、投影する地図の切り換えに伴って当然にスライド陽画フィルムと光学的投影機構を相対的に移動させるという機能を備えているというべきである。
しかしながら、前掲甲第7号証によれば、引用例1には、「前記コマコード“08”に対応するマイクロフイルムの頁コードをディスクメモリー12から読出し該頁コードをインターフェイス3を介してマイクロフイルム検索機1に入力する。該マイクロフイルム検索機は前記頁コードに対応する地図の部分がスクリーン2に投影されるように第3図に示すマイクロフイルム26を制御する。」(3頁左上欄8行ないし15行)、「オペレータはスクリーン2に表示されている住宅地図を見ながらジョイステイック4を左右前後に移動させる。変換器5はジョイステイック4の移動量を検知してそれをデータ量に変換して出力する。変換器5の出力には2つあり、その1つはインターフェイス3を介してマイクロフイルム検索機1のマイクロフイルム制御部分に電気的に直結されていてジョイステイック4の動きに比例してフイルムが移動するようになっており」(同頁左下欄1行ないし9行)と記載されていることが認められるから、引用例1記載の発明においても、投影する地図の切り換えに従って、マイクロフイルムが移動することが明らかであって、引用例1記載の検索機1も本願発明と同様にマイクロフイルム化された地図と光学的投影機構を相対的に移動させる移動手段を備えているというべきである。
したがって、引用例1記載の検索機1には、本願発明のスライド陽画フィルムと光学的投影機構を相対的に移動させる移動手段が当然含まれているとの認定に基づいて、相違点<1>に係る本願発明の構成は、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を採用することにより当業者が容易に想到できたものである、とした審決の判断に誤りはない。
4 原告は、本願発明の要旨とする「位置に関するデータ」における「位置」とは点位置を意味することは、FIG4(別紙図面1参照)及び全文訂正明細書の14頁5行ないし8行の記載から明らかであるのに対し、引用例1記載の発明におけるコマコードに対応する各地図の位置とは単に1個のある広がりを有する地域を示す位置であり、本願発明の位置とはその技術的意味を異にするから、相違点<3>についての審決の認定判断は誤りである旨主張する。
前掲甲第6号証によれば、全文補正明細書の発明の詳細な説明の「f実施例」の項中には、「第4図は同一地域の、それぞれ1:3,000,000と1:1,000,000と1:200,000の縮尺である三つの地図27と28と29とを示す。(中略)枠組30は前図のレンズ機構の照準地域を示す。この枠組30は方形であり、中央は参照番号31により示されている。方向7と8は、座標の中心としてのこの中央点に対して示される。」(全文訂正明細書14頁1行ないし8行)と記載され、FIG4に上記異なる縮尺の同一域の3枚の地図の可能である配置の概念図が示されていることが認められる。
しかしながら、本願発明の要旨とする前記特許請求の範囲には、「同一地域の縮尺が異なる少なくとも2つの地図が同一フレーム内に、かつ予め選択された相対位置に表現されている」と記載されているから、当業者はこの記載から本願発明における「位置」とは少なくとも2つの地図のフレーム内の相対位置であると一義的に明確に理解することができ、本願発明における「位置」の概念をこの特許請求の範囲の記載から離れ、明細書中の実施例の記載及び実施例の構成を説明した図面から原告主張のように限定して解することは許されない。すなわち、本願発明における「位置」は少なくとも2つの地図のフレーム内の相対位置であって、点又は面のいずれによって規定し得る概念であり、点位置に限定されるものではない。
一方、前掲甲第7号証によれば、引用例1には、「第2図において、26はマイクロフイルムベース、26-1から26-19は2000分の1程度の地図がマイクロ化されており、それぞれの地図はお互いに隣接関係にあり、あたかも大きな範囲の地図がます目状に区切られているような状態になっている。26-0は26-1から26-19までの範囲を1コマでカバーするように例えば10000分の1程度の地図がマイクロ化されており、その拡大図を第3図に示す。」(2頁右下欄8行ないし17行)、「第3図に示すようにこの地図には各ます目の右上にコマコード番号が記入されている。」(3頁左上欄2行ないし4行)と記載され、第2図に上記マイクロフイルムシートの形態を示す図面、第3図にその一部の拡大図面がそれぞれ示されていることが認められる。
上記引用例1の記載事項からすると、引用例1記載の発明におけるコマコード(例えば26-0から26-19)はマイクロフイルム(フレーム)内の縮尺の異なる2以上の所定の相対位置に配置された地図を指している(例えば26-0はマイクロフイルム内の第2図左隅の位置にある縮尺10000分の1の地図を指し、26-1から26-19は第3図マイクロフイルム内の第3図のそれぞれ所定の位置にある縮尺2000の1程度の地図を指している)ことが明らかである。そして、前記コマコード及びこれに対応する頁コードは、地図の縮尺及び位置を直接表すものではないが、このコマコード等と地図の縮尺及びフレーム内におけるその相対位置は完全に対応し、所望の縮尺でかつ特定の位置にある地図を選択することができるのであるから、地図の縮尺に関する情報を含むものということができるものである。
したがって、引用例1記載の発明におけるコマコードは縮尺及びフレーム内の位置に関する情報を含むとの認定に基づいて、相違点<3>に係る本願発明の構成は引用例1記載の発明に実質的に含まれており、この点で両者は実質的に相違しない、とした審決の判断に誤りはない。
5 原告は、本願発明は、スライド陽画フィルムの同一フレーム内にある縮尺が異なる少なくとも2つの地図を相互に切り換えても、切り換え前後の映写幕13上に投影される地図像上の一定位置(中央点)は相互に対応して変わらないので、該一定位置を自動車の走行中の現在位置に合わせれば、スクリーン上の該一定位置(中央点)に該自動車の現在位置が必ず表示されるので、運転者にとって極めて便利であるという作用効果を奏するのに対し、引用例1記載の発明には、このような作用効果を全く期待することができないから、審決は、本願発明の奏する顕著な作用効果を看過したものである旨主張する。
しかしながら、原告の上記主張に関連する本願発明の要旨とする前記特許請求の範囲は、「位置に関するデータを上記読み取り装置を用いて上記記憶手段から読み取り、切り換え後にも同一地域が投影されるように、上記位置に関するデータに基づいてモータを駆動する」というものであって、この構成は原告主張の作用効果を奏するための構成として特定されていないというべきである。しかも、ここにいう「位置に関するデータ」はフレーム内の少なくとも2つの地図の相対位置に関するデータを意味することは前述のとおりであり、また、「同一地域」の意味も前記特許請求の範囲における「同一地域の縮尺が異なる少なくとも2つの地図」にいう同一地域と別意に解すべき理由を見出せないから、これを原告主張のように「切り換え前後の映写幕上に投影される地図像上の一定点(中央点)は相互に対応して変わらない地域」の意味に解することはできない。
したがって、原告の主張する作用効果は、本願発明の要旨とする構成に基づかないものであるから、このことを理由に審決に本願発明の奏する顕著な作用効果を看過した違法があるとはいえない。
6 以上のとおりであるから、審決の認定判断は正当であって、審決には原告主張の違法は存しない。
第3 よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項の各規定を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)
別紙図面1
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別紙図面2
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別紙図面3
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